女たちは「いちばん」をのぞまない

「女たちは『いちばん』をのぞまない」は、森まゆみさん(作家)の風刺詩。
 日本スポーツ振興センターのメッセージ「いちばんを作ろう」に対して作られたものです。

 森さんは「それぞれのメッセージを入れて、どうぞご自由にお遣いください」と仰っています。

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女たちは「いちばん」をのぞまない

「世界最高のパフォーマンス」
「世界最高のキャパシティ」
「世界最高のホスピタリティ」

そんなものが何になるのか、この放射能汚染にふるえる日本で。
いまもふるさとを追われさまよう15万人を置き去りにして。
仮設住宅で冬の訪れを待っている無口な人々の前で。

「この国に世界の中心を作ろう」
「スポーツと文化の力で」
「世界で『いちばん』のものをつくろう」

私達が東京に欲しいのは「いちばん」の競技場ではない
神宮外苑の銀杏をすかして降り注ぐ柔らかな光だ。
その向こうの伸びやかな空だ。
休みの日に子どもと一緒にあそべる自転車練習場だ。

1964年、アジアで初めてのオリンピックが東京で開かれた。
それは戦争に負け320万人が死んだ日本、その復興を示すイベントだった。
植民地支配を脱したアジア・アフリカの参加国、その民族衣装の誇らしさ。
「世界史にその名を刻む」のなら、その競技場を残すべきだ。
灯火台をつくった日本の誇る職人技とともに。アベベや円谷の記憶とともに。

ベルリンでは1936年のナチス政権下のオリンピックスタジアムを
今も使う。
それは同じ過ちを繰り返さないことを我が記憶に問うモニュメントでもある。
22年後、1958年築の国立競技場を残す道がないわけはない。
いまこそ「もったいない」の日本を世界につたえよう。

人口減、高齢化、非正規雇用、資源の枯渇、食料自給率、そこから
目をそらして「世界一楽しい場所」なんてできるのか?
”パンとサーカス”に浮かれたローマ帝国末期のようではないか。

女たちは「いちばん」をのぞまない。
私達の子どもの時代に、健やかな地球が存続していることを願う。
「世界一楽しい場所」は私達の近所につくりたい。

風と木と匂いのある町を。路地や居酒屋のある町を。
赤ちゃん、子ども、お年寄りを見守るほっとする町を。
若者が自由に仕事を作り、みんなで応援できる町を。
お金がなくても、助け合って暮らせる町を。
あたたかく、風通しのいい、つつましい町を。

2020年、(せめて)縮小時代に舵を切るオリンピックに。

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— posted by 神原 at 09:51 pm   commentComment [0]  pingTrackBack [0]

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